東京高等裁判所 平成5年(行ケ)228号 判決 1996年2月21日
石川県小松市木場町カ81番地
原告
小田合繊工業株式会社
代表者代表取締役
小田賢三郎
訴訟代理人弁理士
菅直人
同
高橋隆二
大阪市西区江戸掘1丁目9番1号
被告
帝人製機株式会社
代表者代表取締役
近藤高男
訴訟代理人弁理士
三中英治
同
三中菊枝
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、昭和61年審判第23050号事件について、平成5年11月2日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和51年7月21日に特許出願、昭和59年12月1日に出願公告、昭和61年2月28日に特許第1304395号として設定登録を受けた、名称を「挟持式仮撚方法および装置」とする発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は、昭和61年11月27日、原告を被請求人として、上記特許を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を同年審判第23050号事件として審理したうえ、平成5年11月2日、「特許第1304395号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第2項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年12月6日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨
(1) 特許請求の範囲第1項記載の発明(以下、本件第1発明という。)
少なくとも2本の走行する加撚帯をある角度で交差させ、両加撚帯を積極的に押しつけ、交差面に少なくとも1本の糸条をとおし、両加撚帯が糸条に接触しかつ糸条の両側で相互にも面接触するように配置し、それによって糸条を両加撚帯で挟圧した状態で撚ると同時に送り作用を付与することを特徴とする仮撚方法。
(2) 同第2項記載の発明(以下、本件第2発明という。)
挟持式仮撚装置であって、少なくとも1本の第1の加撚帯と、該第1の加撚帯にある角度で交差する少なくとも1本の第2の加撚帯と、該第1と第2の加撚帯を駆動する手段とを備え、該第1及び第2の加撚帯は交差する所で互いに積極的に押しつけられて表面同志が面状に接触するように配置され、少なくとも1本の糸条を該第1と第2の加撚帯の交差面に通しそれによって該糸条は両加撚帯に挟持されかつ両加撚帯の進行に伴なって撚られると同時に送り作用を受けるところの装置。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明は、請求人提出に係る本件発明の出願前である昭和51年7月19日に特許出願され、本件発明の出願後である昭和53年1月31日に出願公開された特願昭51-85853号の出願当初の明細書及び図面(審判手続甲第8号証、本訴甲第3号証、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)と同一であるから、特許法29条の2第1項、123条1項の規定により無効とすべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本件発明の要旨(審決書2頁8行~3頁9行)、引用例の記載事項(同6頁13行~9頁19行)、本件発明の技術的課題及び作用効果(同10頁1行~11頁10行)の各認定は認める。
しかし、審決は、引用例に全く記載がないのに、誤った独自の推論のもとに、引用発明における「2本のある角度で交差し走行するベルトは単に糸条と接触するのみならず、両ベルトは糸条の両側で相互にも面接触し、それによって糸条を両ベルト間に挟圧した状態で撚ると同時に送り作用を付与する態様となると解するのが相当である。」(審決書12頁13~18行)と誤って認定し、この誤った認定を前提として、引用発明と本件発明の構成が同一であり、その作用効果も共通するとして、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 本件発明の特徴
本件発明の要旨は審決認定のとおりであり、本件第1発明は仮撚方法、本件第2発明は仮撚装置の発明であるが、両者において、「両加撚帯を積極的に押しつけ、交差面に少なくとも一本の糸条をとおし、両加撚帯が糸条に接触しかつ糸条の両側で相互にも面接触するよう配置すること」ないしは配置されていることが、重要な必須要件である。
この両加撚帯(両ベルト)を積極的に押しつけ、糸条の両側で相互にも面接触する状態は、本件明細書(甲第2号証)図面第2図に示されるように、表面同士が面接触する状態であるとともに、両ベルト間に接圧が存在する(同号証6欄39行~7欄3行)ことを意味する。
本件発明は、従来の糸条と高摩擦体との摩擦力を利用して高摩擦体に接触した糸条に撚りをかけるいわゆる摩擦仮撚方式とは全く異なる技術思想に基づくものであって、両ベルトの間に糸条を挟持(ニップ)した状態の挟持力を用いて、糸条に送り作用と撚り作用を与えて加撚するものである(同3欄22行~4欄42行)。
従来の摩擦仮撚方式において、2本の無端ベルトからなる加撚帯を交差させて、その間に糸条を通して高摩擦体のベルトと糸条との摩擦力で加撚する方式もあったが、その方式は、高摩擦体の両ベルトが相互に接触して走行すると表面が発熱、粘着化して実用にならないため、両ベルト同士を極めて接近させて糸条とベルト間との摩擦力を保持しつつ、両ベルトは積極的に接触させないで両ベルト間の表面の発熱、磨耗を防ぐ方法である。すなわち、この方式は、両ベルトと糸条との間には接圧があるが、両ベルト間には接圧がない状態である。
これに対し、本件発明は、両ベルト同士を積極的に押しつけて糸条を挟持し、その挟持力で糸条を加撚するため、ベルト同士が近接することはありえず、常に両ベルトは接圧をもって表面同士が接触している。本件明細書の「従来の摩擦仮撚装置では施撚効果を高めるため一般に表面摩擦係数の大きい加撚部材が用いられたが、本発明者は、逆に比較的表面摩擦係数の小さい方が好ましいことを見出した。」(同7欄4~7行)との記載どおり、本件発明の施撚は、糸条とベルトとの挟持力を利用するものであって、摩擦力自体に依存するものではない。
上記のとおり、両ベルト間の接圧は、ベルトと糸条との間の接圧とは、当然に異なる。本件明細書に、「本発明の如くベルトが積極的に接触しているか、また従来試みられた如く消極的な接触ないしは接触していないという構造上の差は仮撚加工という面においては、きわめて大きな効果上の差異をひきおこすものである」(同9欄43行~10欄40行)、「ベルト相互が0.5mm以上押しこまられた状態つまり充分に押しつけられた状態では安定的な撚りがかけられるけれどもベルトが充分押しこまれていない状態では撚りが大きくバラツキしかも撚り数が急激にへることが示されている。そしてさらに、ベルト相互の距離が0つまりかろうじて接している状態においてはほとんど撚りがかからずしかもたいへんに撚りのバラツキが大きいということが示されている。」(同13欄36~44行)と記載されているように、本件発明において、両ベルトを積極的に押しつけ糸条の両側で相互にも面接触するように配置することの技術的意味は、ベルト相互が十分に押し込まれて、本件明細書図面第2図に示す状態になっていることを意味する。このような状態であれば、ベルトと糸条との接圧が存在するとともに、両ベルト間の接圧も存在し、両ベルト間の押し込み量が一定以上で両ベルト間の接圧が一定以上になれば、糸条は両ベルトに安定的に挟持され、撚数の安定が実現する。
したがって、本件発明は、高速かつ長期にわたって安定した仮撚加工ができ、毛羽の発生や糸切れを誘発しない仮撚糸の外観上、品質上の安定性(同8欄25~31行)及び撚数の安定性(同13欄35行~14欄44行)が得られるという顕著な効果を奏する。
2 引用発明における「接近または接触」の意味
(1) 引用発明における両ベルト間の位置関係は、引用例(甲第3号証)の特許請求の範囲に、「接近または接触してそれぞれ異なる方向へ走行するベルト間に」とあるように、「接近または接触」しているものである。
この「接近または接触」することの技術的意味は、ベルト同士が接触していないが極めて近接して糸条に対する接圧力を有しつつ、ベルトの波打ちなどで間欠的に接触する場合など、ベルト走行中にわずかに時折接触することである。
引用例には、「両ベルト1a、1bは交叉角θをなして配置されると共に、プーリ間において所定量たわんだ状態で互いに背面が接近または接触するように配置され・・・ている。・・・ベルト1a、1bの反交叉部側のプーリ間にテンションプーリ4を設け、この押圧力を・・・バネ15等にてコントロールすることによりベルト1aの張力を調整し、前記のようにたわんでいるベルト1a、1bの交叉部を張って、該交叉部の面圧を所定の値に調整、設定する」(同号証1頁右下欄16行~2頁左上欄19行)と記載されているように、当初たるませておいたベルトの一方1aを張らせて、交叉部の面圧を調整する方式が示されている。
この方式の場合、一方のベルトがかけられている対のプーリの円形表面の接線が他方の対のプーリの接線と互いに内側に入り込むような位置関係にこれらプーリが配置されているのであれば、ベルトを張れば、両ベルトが相互に押し込まれて面圧は高まる。この場合、両ベルトは常に面同士が接触しているので、両ベルトが接近することはありえない。これに対し、プーリの接線が一致し又は少し離れていて、両ベルトが張った状態では接するか又は少し間隔が開くが、たるんだ状態では走行による遠心力でふくらんで両ベルトが接近又は接触するといった位置関係に配置されていると、ベルトを張れば、両ベルトは離反することにもなる。この場合、両ベルト同士の接圧はない。
そして、引用例には、上記のとおり、「接近または接触するように配置」すると明瞭に記載されているのであるから、引用発明では、両ベルトの「接近」状態が実現できる後者の配置関係にあることが自明である。
(2) 被告は、引用例には、両ベルトが接近して走行する態様の仮撚装置と接触して走行する態様の仮撚装置が開示されており、「接近または接触」との記載は、これら2種の装置を選択的に示すものであると主張する。
しかし、両ベルトの表面が互いに接近するが接触せず、あるいはわずかな接触によって糸条を挟持する摩擦式仮撚装置及び方法は、本件発明及び引用発明の出願当時の公知技術であるとともに、一般技術水準であった。米国特許第3045416号明細書(甲第4号証)、英国特許第1083052号明細書(甲第5号証)がこれを示し、さらに、本件発明の先願出願に当たる特開昭51-133559号公報(甲第6号証)記載の発明は、引用発明と同一の発明者の出願に係るものであるが、「ベルト11、14は適宜な張力を付与することにより、互いに接触せずもしくはわずかな接触のみで、確実に糸条体Yをはさむことができ」(同号証2頁右12~14行)として、上記の摩擦式仮撚方法を開示している。
この技術水準及び引用発明が出願されるに至った開発経過、特に両ベルトは接触させないようにできるだけ接近させる従来からの技術的要請のもとに、引用発明の発明者が、引用発明の出願前においても出願後においても一貫して、「接近または接触」との技術的意味として、上記両ベルトの間欠的接触状態を示すものとしつつ、間欠的接触状態の仮撚装置を開発していることからすれば、引用発明の「接近または接触」の意味が、間欠的接触状態を意味することは、明らかである。
3 審決の推論の根拠について
(1) 審決は、前記認定の根拠の第1として、引用例には、「特許請求の範囲ほかにおいて糸条に対するベルトの『接圧力』と区別して『面圧』と表現していること」を挙げる(審決書13頁12~14行)が、誤りである。
引用発明は、その特許請求の範囲に記載されているとおり、両ベルトが接近した状態すなわち両ベルト間に接圧がない状態で糸条を挟持し、糸条に対する接圧力をコントロールする技術を当然含んでいる。この場合、ベルトの交叉部を張って面圧を調整するとすれば、ベルト同士は接触していないのであるから、ベルト同士の接圧力はゼロである。一方、引用例の図面第2図には、面圧が約1000g以上加えられた状態の関係が示されている。もし、この「面圧」の意味を、審決認定のように、ベルト同士の接圧と解すると、接圧がゼロの状態を示していない同図は、接近状態での撚り数の調整を示したものとはいえなくなり、引用発明の発明者が意図したベルト同士が接近している状態での技術内容は、同図に示されていないことになる。これとは反対に、「面圧」の意味を「糸条に対するベルトの接圧」と解すれば、両ベルトが糸条の直径より狭い範囲にまで接近すれば、面圧が当然生ずるので、このような矛盾は生じないし、摩擦仮撚方式を開示する引用例の技術内容とも矛盾しない。
したがって、引用例の「ベルト1a、1bの交叉部を張って、該交叉部の面圧を所定の値に調整、設定する」(甲第3号証2頁左上欄17~19行)との記載は、糸条に対するベルトの接圧力の調整を、面を構成するベルトの交叉部からみた表現として、「面圧」と記載されたものと理解すべきであり、それを越えて、ベルト同士の接圧力と理解すべきではない。
(2) 審決は、根拠の第2として、引用例の「第3図のベルト1a、1bの関係が両ベルトが食込んだ配置となっていること」(審決書13頁15~16行)を挙げる。
しかし、同図は、糸条Yが明らかに誇張して太く図示されているように、実際の実施態様の寸法に忠実に図示されていない。したがって、同図から、両ベルトが相互に食い込んだ配置であるか、食い込んでない配置であるかの微妙な事実を即断することはできない。
引用例には、被告の指摘するように、第4図について、「プーリ2a、3aまたは2b、3bの軸間距離la、lbを変化可能にしたり、プーリ2a、3aとプーリ2b、3bを相対的に移動可能に設けることにより、面圧をコントロールするようにしてもよい」(甲第3号証2頁左下欄20行~右下欄4行)と記載されているが、どのように相対的に移動するかについての記載はなく、仮に交叉部と垂直方向に移動することであるとしても、このことは、接近状態において糸条とベルトとの接圧をコントロールすることに他ならないから、必ずしも両ベルトを相互に押し込むことを意味するものではない。
また、引用例には、第5図について、距離lcを変化可能にすることが記載されている(同3頁左上欄2行)が、同図に示す構成は、ベルト相互を交叉させるものではなく、ベルト同士が押し込まれている構成とは異質のものである。したがって、機能的にも、糸条の送り作用はなく、本件発明とは異なる。
(3) 審決は、根拠の第3として、「両ベルトの背面へ給水を行って仮撚していること」(審決書12頁12~13行)を挙げる。
この給水は、引用例の図面第6図に示す実施例についての「40は、ベルト21a、21bの接近または接触部にオイリング液、水等の潤滑剤を供給するためのノズルである。」(甲第3号証3頁右上欄12~14行)との記載からうかがえるように、糸条とベルトとの摩擦あるいはベルト走行中に間欠的に起こるベルト同士の摩擦に対する潤滑作用を目的としたものであり、これを越えて、ベルト同士が積極的に押し込まれて生ずるベルト同士の摩擦に対するものであることを示す記載は、引用例にはない。
したがって、同記載は、審決の推論の根拠となるものではない。
(4) 審決は、根拠の第4として、引用例には、「本件特許発明の実施例とほぼ同等の糸条繊度と加工速度、撚数として仮撚加工をした実施態様が示されていること」(審決書13頁16~19行)を挙げる。
しかし、引用例には、本件発明の作用効果、すなわち糸条の品質の安定性、撚数の安定性に関する実験結果は示されていない。
被告は、引用発明の効果として、撚数の安定化を主張するが、本件発明の効果である「撚りの安定性」の実現とは、連続運転した場合の時間に対する安定性を意味するものであり(甲第2号証3欄31~33行、表-3、第8図)、この効果は、引用発明において実現されていない。引用例の第2図においては、どの程度の運転時間に対する安定化を実現したか不明であり、黒点のバラツキをみる限り、大幅に撚数が変動しており、本件発明によって実現した1%前後の極めて小さい変動率は全く示されていない。ベルト同士が「接近または接触」する構造の引用発明においては、ベルトが接近したり、間欠的に接触したりすることから、面圧(糸条に対する接圧力)が一定しないことが十分考えられ、そのため、撚数の安定化は不可能である。
第4 被告の主張の要点
審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。
1 原告の主張1について
(1) 本件発明の要旨は、審決認定のとおりであり、本件発明においては、両ベルトを積極的に押しつける構造も具体的に特定されておらず、両ベルト間の摩擦及びベルトと糸条間の摩擦のいずれについても、何ら特定されていない。単に、本件第1発明において、「両加撚帯が糸条に接触しかつ糸条の両側で相互にも面接触するように配置され」ていること、本件第2発明において、「第1及び第2の加撚帯は交差する所で互いに積極的に押しつけられて表面同志が面状に接触するように配置され」ていることが、記載されているにすぎない。
(2) 本件発明及び引用発明の出願当時の技術水準をみると、両発明の出願前の公知文献である米国特許第2863280号明細書(乙第3号証)、その一部継続出願である米国特許第3045416号明細書(甲第4号証)には、糸条を両ベルトで挟圧する態様の仮撚方法及び装置が開示されている。
同じく公知文献である英国特許第1083052号明細書(甲第5号証)には、両ベルトの表面同士が糸条の両側で互いに押圧されることが記載されている。このようにベルト同士が互いに押圧されるということは、ベルト同士が接触していることに他ならない。また、この明細書には、ディスクの間で糸条を施撚する際に、ディスクの表面に可撓性を持たせて糸条の両側で両ディスクの表面を接触させることも記載されている。
特開昭51-133559号公報(甲第6号証)は、本件発明及び引用発明の先願であり、両発明の出願後に公開されたものであるが、そこには、「互いに接触せずもしくはわずかな接触のみで、確実に糸条体Yをはさむ」(同号証2頁右上欄13~14行)と記載され、接触せず確実に糸条体をはさむ態様とわずかな接触のみで確実に糸条体をはさむ態様が「もしくは」という選択的接続詞で結ばれている。
同じく本件発明及び引用発明の先願であり、両発明の出願後に公開された特開昭52-37859号公報(甲第7号証)には、「この捻転力は、ベルト1a、1bの走行面M、Nの間隙Cを狭くて糸状体Yと前記走行面M、Nとの間をより狭く〔場合によっては糸状体Yの左右(第2図において)の走行面M、Nが接触するまで〕することにより」(同号証2頁左下欄16~20行)として、明らかに、ベルト同士が接触させることが記載されており、その特許請求の範囲の「接近または接触」が、接近する態様と接触する態様とを考慮して記載されていることが明らかである。
本件発明及び引用発明の後願である特開昭53-31845号公報(甲第8号証)には、ベルト同士を最接近点7において意図的に強く接触することが記載されており(同号証3頁左上欄4~10行)、このことからすると、その特許請求の範囲の「接近または接触」は、接近する状態と接触する状態を考慮しそ記載されていることが明らかである。
特開昭54-59445号公報(甲第9号証)は、本件発明の出願公開後に出願された引用発明の後願であり、そこには、「ベルト同志またはベルトとローラは接触しやすい。糸条をはさむだけのわずかな隙間を与えるなり、接触しても上記のもの同志強く接触しないようにしたい」(同号証1頁右下欄10~13行)とあり、この発明により課題が解決される前の段階においては、ベルト同士が強く接触していたことが明らかである。この状態が、原告主張の間欠的接触状態とする根拠はない。
特開昭54-68432号公報(甲第10号証)も、本件発明の出願公開後に出願された引用発明の後願であるが、そこには、ベルト同士が接触した状態と近接して平行で隙間がある状態とをとりうる仮撚装置の発明が開示されている。
以上の各文献の示すところによれば、本件発明及び引用発明の出願時において、交差して走行するベルト間に糸条を挟持して施撚する際に、両ベルトを互いに非接触とすること(乙第3、甲第4号証)と、両ベルトを互いに接触させること(甲第5号証)は、いずれも公知であったこと、本件発明及び引用発明の出願の前後において、接近する態様と接触する態様の両態様が考慮されており(甲第7、第8号証)、原告主張の間欠的接触状態ではないことが、明らかである。
2 原告の主張2について
(1) 引用例の特許請求の範囲には、「接近または接触してそれぞれ異なる方向へ走行するベルト間に糸条をはさんで通過走行させ撚りを与えるようにした仮撚装置において、糸条に対するベルトの接圧力をコントロールすることにより撚数を設定または調整することを特徴とする撚数コントロール方法。」と記載されており、この記載中、「接近または接触」、「設定または調整」における「または」は、並列的な事項のどちらを選択してもよいことを示す選択的接続詞であるから、引用例には、両ベルトが「接近して」走行する態様と、両ベルトが「接触して」走行することの2態様が開示されていることは明らかである。審決は、この2態様のうち、両ベルトが接触して走行する態様の発明と本件発明とを検討したものである。
引用例の発明の詳細な説明にも、「または」の語が、「接近または接触」のほかに多数使用されており(甲第3号証1頁左下欄13~14行、右下欄4行、2頁右上欄17行、右下欄1行、17行、20行)、これらの「または」は、いずれも並列的な事項のどちらを選択してもよいことを示す選択的接続詞として用いられている。さらに、「テンションプーリ24aまたは/および24bを設け」(同2頁右下欄17行)との記載に示すように、引用例においては、テンションプーリ24aと24bのいずれかを選択して設ける場合と、両方を設ける場合を区別して明らかにしている。
このような引用例の記載からみて、引用発明における「接近または接触」の意味を原告主張のように解する根拠はないといわなければならない。
(2) 引用例には、その図面第1図に、両ベルトが「接近または接触」するように配置された発明の1実施態様が示され、その第3図において、第1図に示された実施態様の具体例が示されている。
この第3図には、ベルト1aの表面に対して、ベルト1bの表面はベルトの厚さ以上に押し込まれている状態が図示されており、糸条Yに対するベルト1a、1bの関係は、明らかに接触状態である。また、これについての説明においても、「ベルト1a、1bの交叉部を張って、該交叉部の面圧を所定の値に調整、設定する」(同2頁左上欄17~19行)、「プーリ2a、3aとプーリ2b、3bを相対的に移動可能に設けることにより、面圧をコントロールするようにしてもよい」(同2頁右下欄2~4行)と記載されている。ベルト交叉部の面圧は、ベルト同士が接触している場合にのみ生ずるものであり、ベルトと糸条の間の接触は面接触ではないから、面圧は生じない。このように、引用例の第3図における状態は、ベルト同士が面接触していることを明らかに示している。
引用例の図面第2図は、「面圧と撚数の関係の一実験結果を示すグラフ」(同3頁左下欄12~13行)である。ここにいう面圧は、ベルトの交叉部における面圧であり、ベルト同士が面接触している結果としての圧力が示されている。第2図において、面圧の下限値が実験結果の測定点の数値としては約1000g、グラフの線としては約800gの有限の値までしか示されていない。このことは、この実験結果がベルト同士が接触しない、すなわち、面圧がゼロの状態を含んでいないことを明らかに示しており、両ベルトが接近している場合ではなく、接触している場合を示している。
特に、第2図に示された所定の面圧状態においては、十分に撚りがかかり(例えば、1500gの場合、2500T/m)、しかも縦軸方向の黒点が集中しており、そのバラツキも小さいので、これをみて、両ベルトが走行中間欠的に接触する状態であるなどとは、当業者は決して考えない。間欠的接触、すなわち、経時的にベルトの接触状態が変化した場合には、当然に糸条とベルトとの接触状態が変化し、確実に所定の撚数が得られるようにするという引用発明の目的は達成できず、また、撚数の安定化という引用発明の効果も奏されない。
3 原告の主張3について
(1) 原告は、引用例の記載においては、「交叉部の面圧」の技術内容については一切説明されていないと主張するが、「交叉部の面圧」は、それ自体、その内容が技術的に明瞭であり、補充説明を要しない。当業者であれば、「面圧」の用語により、「面」と「面」との接圧と理解し、交叉部において面と面とが接触しているものは両ベルトであるから、この面圧はベルト同士の接圧力と理解する。
面状物であるベルトと線状物である糸条とが接触すれば線接触状態となり、面圧とはならない。審決指摘のとおり(審決書13頁12~14行)、引用例においては、「糸条に対する接圧力」と区別して「面圧」と表現しているのであるから、原告主張のように「面圧」を「糸条に対するベルトの接圧力」と解することはできない。
(2) 前記のとおり、引用例の図面第3図における状態は、ベルト同士が面接触していることを明らかに示している。原告は、同図は誇張して図示されているというが、誇張されて図示されているからこそ、ベルトが相互に食い込んだ配置であると判断できるのであり、同図と両ベルトが相互に食い込んでいない状態が示されている特開昭51-133559号公報(甲第6号証)の図面第4図を対比すると、前者が両ベルトが相互に食い込んでいる状態を示していることが明らかである。
(3) 審決は、給水の事実を指摘しているにすぎないが、水が潤滑剤、冷却剤のいずれであったとしても、ベルトの背面に給水を行うことにより、ベルト表面の磨耗を防止する効果が奏されることは明らかであるから、審決が、両ベルトの背面に給水を行って仮撚していることを両ベルトが面接触していることの根拠の一つとしたことは、正当である。
(4) 引用例には、引用発明の目的、効果につき、「非常に簡単な手段にて、容易かつ確実に所定の撚数を得られるようにした撚数コントロール方法を提供することにある」(甲第3号証1頁右下欄10~13行)、「撚数の安定化または調製、変更等のコントロールを非常に簡単かつ確実に行うことができ、信頼性の高い高速仮撚を行わせることができる」(同号証3頁左下欄6~9行)として、撚数の安定化が行えることが記載され、その第2図に示されているデータによれば、同一の面圧(例えば、1000g、1500g)における撚数の変動すなわち黒点の縦軸方向の分布は極めて小さく、安定した撚数が実現されていることが示されている。
したがって、原告の主張は理由がない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 本件発明の内容
当事者間に争いがない前示本件発明の要旨と、本件明細書(甲第2号証)の「本発明は2本の無端ベルトを積極的に押しつけ、その間に糸を通すことにより安定的な挟持を可能とし」(同号証3欄22~24行)との記載によれば、仮撚方法に係る本件第1発明、仮撚装置に係る本件第2発明の両者において、「両加撚帯を積極的に押しつけ、交差面に少なくとも一本の糸条をとおし、両加撚帯が糸条に接触しかつ糸条の両側で相互にも面接触するよう配置すること」ないしは配置されていることが、本件発明の特徴をなす構成であることが認められる。
この両加撚帯(両ベルト)を積極的に押しつけ、両ベルトが糸条の両側で相互にも面接触する状態は、本件明細書図面第2図に示されるように、両ベルトの表面同士が面接触する状態であるとともに、両ベルト間に接圧が存在する(同6欄39行~7欄3行)ことを意味するものと認められるが、この接圧の具体的数値は、本件発明の要旨には特定されていない。
また、本件明細書の記載(同9欄43行~14欄45行)の記載によれば、両ベルトを積極的に押しつけるためには、「交差する所でベルト32と33を押し当て、そして所望の深さだけ互いに押し込むこと」(同11欄29~31行)が必要であり、安定的な撚りがかけられる充分に押し込められた状態とは、糸の太さが直径約0.088mmの場合には、「ベルト相互が0.5mm以上押し込まれた状態」(同13欄36~37行)をいうものと理解できるが、この押し込みの程度すなわち「ベルト32と33の両方の押し込まれた深さの合計」(同12欄26~27行)で表されるベルトの押し込み量についても、本件発明の要旨には、特段に具体的数値でもって特定されていない。
2 公知技術及び先行技術
以上を前提に、引用発明及び本件発明の出願時(前者につき昭和51年7月19日、後者につき同年同月21日)における公知技術及び先行技術について検討する。
(1) 上記出願時における公知文献である米国特許第2863280号明細書(1958年12月9日特許、乙第3号証)及び米国特許第3045416号明細書(1962年7月24日特許、甲第4号証)には、2本のある角度で交差し走行するベルトを糸条に接触させて仮撚する方法及び装置の発明が開示されているが、この方法においては、両ベルトは糸条を挟圧するが、ベルト同士を積極的に接触させるものではないと認められる。
同じく公知文献である英国特許第1083052号明細書(1967年9月13日特許、甲第5号証)には、その特許請求の範囲に、「少なくとも部分的に熱可塑性の糸条に仮撚を付与する方法において、2つの移動表面の間に糸条を通過させるステップを含んでおり、それにより加撚する摩擦力が糸条に作用し、前記表面を糸条に接触するように作用する磁性手段が設けられていることを特徴とする方法」(同号証被告提出全訳文11頁特許請求の範囲1項)及びその方法を実施するに適した装置(同13頁特許請求の範囲13項)の発明が記載されており、その移動表面は、2つの回転ディスクの表面であってもよく、2つの駆動ベルトの表面であってもよく、これらの表面は、幾分の可撓性を有することが好ましい(同5頁12~18行、平成7年10月30日付け原告訳文提出書2頁(1))ことが開示されている。
この移動表面として2つの回転ディスクの表面を用いる実施例において、2つのディスクの重なった縁部は、磁性手段により、互いに引きつけ合うようにされており(被告提出全訳文8頁3~4行)、また、移動表面として2つの駆動ベルトの表面を用いる実施例において、「2つの駆動ベルトの交差点の下方には駆動ベルト17を吸引する馬蹄形磁石18が設けられており、それは該駆動ベルト17を引きつけ、駆動ベルト16の方向に押している。作動時には、テキスタイルヤーン6はベルト16、17の間で押圧され、望ましからざる滑りを避けるようにしている」(原告提出甲第5号証抄訳・本文8~14行)ものであり、これらの場合、糸条を挟む2つのディスク又は2つの駆動ベルトの少なくとも1つは可撓性の有するものであるとされており、糸条を挟む両表面の縁部又は交差部において、一方を他方側に押すための手段として磁性手段が用いられているのであるから、この押しつける力を強くすれば、両表面は糸条に接触するばかりでなく、ベルト同士が面接触することは、当然に考えられるところである。
同明細書の図面第7図には、両ベルトが糸条の両側に接触しているが、ベルト同士は接触していない状態が図示されているが、明細書本文中において、ベルト同士又はディスクの縁部同士が接触しないように維持すべきことを明示する記載は見当たらない。同明細書には、その特許請求の範囲5項に、「前記2つの移動表面の糸条との接触点または領域が糸条に対して正反対にあり、そしてそれぞれの糸条との接触点または領域において両表面が実質的に同速度で移動することを特徴とする上述の請求項の何れか1つに記載の方法」(被告提出全訳文11頁20行~12頁4行)として、上記第7図の態様に即した請求項が記載されているとともに、その特許請求の範囲10項には、原告提出の翻訳文によれば、「前記表面らの少なくとも1つが弾性を有しており、それによって、前記表面ら自体は糸条のどちらか一方側に接触して押し合っていることを特徴とする上述の請求項の何れか1つに記載の方法」(前掲原告訳文提出書3頁(6))、被告提出の翻訳文によれば、「前記表面の少なくとも1つが弾性を有しており、それによってその両表面それ自体が前記糸条の各側において接触するよう押圧されていることを特徴とする上述の請求項の何れか1つに記載の方法」(被告提出全訳文12頁16~20行)が記載されており(原文、「A method as claimed in any of the preceding claims in which at least one of the sur-faces is resilient whereby the surfaces themselvesare pressed into contact on either side of the yarn.」)、これによれば、同項は、両表面自体が押し合っている状態にあるものを、同発明の1態様としていることを示しているものと認められる。
(2) 次に、昭和50年5月12日出願に係る特開昭51-133559号公報(甲第6号証)及び同年9月17日出願に係る特開昭52-37859号公報(甲第7号証)記載の発明は、いずれも、引用発明及び本件発明の出願前に出願され、両発明の出願後に公開されたもので、その発明者及び出願人を引用発明のそれと同じくする発明であることが認められる。
そして、その前者には、「適宜な角度で交叉しそれぞれ同一速度で走行するベルトにて糸条体をはさみ、前記ベルトの走行分力によって該糸条体に撚りと送りを同時に与えて仮撚を施すことを特徴とする仮撚方法」(甲第6号証1頁左下欄特許請求の範囲)の発明が記載されているが、この発明は、「ベルト11、14は適宜な張力を付与することにより、互いに接触せずもしくはわずかな接触のみで、確実に糸条体Yをはさむことができ、・・・したがってベルト11、14の走行により糸条体Yに撚りと送りを同時に与える」(同号証2頁右上欄12行~左下欄1行)というものであって、ベルト同士を積極的に押しつけ、糸条の両側で相互にも面接触させるものではないと認められ、前示米国特許第2863280号明細書(乙第3号証)及び米国特許第3045416号明細書(甲第4号証)記載の各発明と、この点について同等のものと認められる。
しかし、後者(甲第7号証)には、「互いに接近または接触してそれぞれ異なる方向へ走行する走行面の間に糸条体を通し、この部分の前記走行面の間に水、油剤等の液体を介在させ、前記走行面の走行によって起こされる前記液体の運動によって仮撚を施す仮撚方法」(同号証1頁特許請求の範囲)の発明が記載されており、両ベルトは、互いに「接近または接触して」走行するものであるところ、その図面第2図及び「この捻転力は、ベルト1a、1bの走行面M、Nの間隙Cを狭くて糸状体Yと前記走行面M、Nとの間をより狭く〔場合によっては糸状体Yの左右(第2図において)の走行面M、Nが接触するまで〕することにより・・・相当大きな値になし得る」(同2頁左下欄16行~右下欄4行)との記載によれば、同発明は、両ベルトが糸条体Yに接触するとともに、ベルト同士が糸条体の両側で相互にも面接触するように配置する方法が開示されているものと認められる。
そして、上記の記載からすると、同公報には、両ベルトの走行面M、Nとの間隔を調整することにより、両ベルトの走行面が糸条体にのみ接触する状態、両ベルトの走行面相互の距離をより狭くして、ベルト同士がかろうじて接している状態、さらに、両ベルトが糸条体Yに接触するとともに、ベルト同士が糸条体の両側で相互にも面接触する状態のいずれをも採用できることが開示されていると認められる。
このことによれば、上記特許請求の範囲における「接近または接触して」との記載は、両ベルトが接近するが接触まではしないで走行する態様から、ベルト同士が面接触して走行する態様までのいずれをも採用できることを表現したものと解すべきであり、これを、原告主張のように、間欠的接触状態を意味すると解する根拠はない。
3 引用発明の内容
(1) 引用発明は、上記特開昭52-37859号公報記載の発明の出願の約10か月後に出願されたものであるところ、その特許請求の範囲に、「接近または接触してそれぞれ異なる方向へ走行するベルト間に糸条をはさんで通過走行させ撚りを与えるようにした仮撚装置において、糸条に対するベルトの接圧力をコントロールすることにより撚数を設定または調整することを特徴とする撚数コントロール方法」と記載されていることは、当事者間に争いがない。
そして、引用例(甲第3号証)には、その図面第1図に図示されている2つのベルトが交叉している実施態様の説明として、「本実施態様においては、図示のように、ベルト1a、1bの反交叉部側のプーリ間にテンションプーリ4を設け、この押圧力を後述する第3図に示すようにバネ15等にてコントロールすることによりベルト1aの張力を調整し、前記のようにたわんでいるベルト1a、1bの交叉部を張って、該交叉部の面圧を所定の値に調整、設定することにより、前記加撚力を所定の値にコントロールして、所望の撚数を得るようにしたものである。」(同号証2頁左上欄12行~右上欄1行)、「前記加撚力は、前記面圧のみならず、ベルト1a、1bの交叉角θ、ベルト1a、1bの走行速度、ベルト1a、1bと糸条Yとの摩擦係数等の種々の条件によって左右されるものであるが、前記面圧を変えることにより、第2図に示すように、撚数が大巾に変化するものである。」(同2頁右上欄2~7行)と記載され、その第2図に、「面圧と撚数の関係の一実験結果を示すグラフ」(同3頁左下欄12~13行)が示されている。
次いで、第3図の説明として、「第3図は、テンションプーリ4をベルト1aに押圧するための具体的手段の一例を示すもので、・・・レバー14と前記アーム12間にバネ15を設けてテンションローラ4をベルト1aに押圧させるようにし、該バネ15にてベルト1aの張力を一定にコントロールしてベルト1a、1bの接圧力を一定に制御すると共に、前記レバー14を調整ネジ16で揺動させてバネ力を調整し、前記テンションローラ4の押圧力を変化させ得るようになっている。」(同2頁左下欄3~16行)と記載され、また、第4図に関し、「さらにまたプーリ2a、3aまたは2b、3bの軸間距離la、lbを変化可能にしたり、プーリ2a、3aとプーリ2b、3bを相対的に移動可能に設けることにより、面圧をコントロールしてもよい」(同2頁左下欄20行~右下欄4行)と記載されており、第3図には、ベルト1aが掛けられているプーリ2a、3aと、ベルト1bが掛けられているプーリ(第1図によれば、プーリ2b、3b)が相互に相手方の対をなすプーリ間に若干入り込んで位置するように配置されるとともに、テンションプーリ4がベルト1aを押圧していることが図示されているから、第3図と第1図を合わせて見れば、ベルト1a、1bは互いに食い込んだ状態にあり、交叉部において面接触しながら走行するものと理解できる。
上記の「交叉部の面圧」との用語は、その用いられている文脈のうちにおいて、ベルト同士の交叉する部位における面同士の接触圧力を意味すると通常理解できる用語であって、引用例に接した当業者は、第2図、第3図の具体例では、ベルト同士が交叉部において面接触していることが理解できる。これを、原告主張のように、「糸条に対するベルトの接圧」であると理解しなければならない技術的な必然性はないというべきである。
このことは、第1図の説明において、「この加撚により糸条Yに与えられる撚数は、前記のように糸条Yがベルト1a、1bにはさまれることすなわち接圧されることによって加撚力を付与されるため、糸条Yの張力変動には関係なく、ベルト1a、1bによって与えられる加撚力によってのみ定まる。」(同2頁左上欄7~12行)と記載され、かつ、第3図について、「ベルト1a、1bの交叉部を張って、該交叉部の面圧を所定の値に調整、設定することにより、前記加撚力を所定の値にコントロールして、所望の撚数を得るようにしたものである。」(同2頁左上欄17行~右上欄1行)と記載して、両ベルトの糸条に対する接圧力が加撚力になること、この加撚力の調整は、第3図の具体例では、両ベルトの交叉部における面圧の調整、設定によるものであることを明らかにしていることからも、明らかである。
また、引用発明の他の実施態様、すなわちベルトが交叉するものではない実施態様の概要図である第5図、この実施態様の具体例を示す第6図、第7図において、2つが対となって1組をなす2組のプーリが相互に相手方の組のプーリ間に入り込んで位置するように配置されているため、両ベルトは互いに食い込んだ状態となって、両ベルトが糸条Yを挟持するとともに、ベルト同士が面接触していることが図示されているが、これにつき、この仮撚装置においても前述した場合と同様に、テンションプーリを設け、あるいは、プーリの軸間距離(la、lb)又は相対距離(lc)を変化可能にするなど、ベルトの張力をコントロールする手段を用いて、「糸条Yに対するベルト21a、21bの接圧力をコントロールすることにより、所望の撚数が得られるものである。」(同3頁左上欄4~6行)、「ベルト21a、21bが糸条Yに与える接圧力を所定値となるようにコントロールするようになっている。」(同3頁右上欄5~8行)としているのは、加撚力の調整は両ベルトの交叉部における面圧の調整、設定によるものであることを当然の前提として、これにより、加撚力となる両ベルトの糸条に対する接圧力をコントロールできることを述べたものと理解できる。
以上の引用例の記載及び図面によれば、引用発明においては、テンションプーリによりベルトを押圧することや、これに加え、各ベルトが掛けられる対をなす各組のプーリの軸間距離又はその相対距離を調整すること等の手段によって、両ベルトが接近するが接触まではしないで走行する態様から、ベルト同士が面接触して走行する態様までのいずれの態様を採ることができるものと認められ、この点に限れば、前示特開昭52-37859号公報(甲第7号証)記載の先行発明と同じであると認められ、そうである以上、同先行発明の特許請求の範囲における「接近または接触して」との記載と、引用発明の特許請求の範囲における「接近または接触して」との記載は、同じ意味において使用されているというべきである。
すなわち、引用発明においては、両ベルトが接近するが接触まではしないで走行する態様から、ベルト同士が面接触して走行する態様までのいずれをも包含するものであり、これを、原告主張のように、間欠的接触に限られると解すべきではないといわなければならない。
以上のとおりであるから、審決が、引用発明につき、「2本のある角度で交差し走行するベルトは単に糸条と接触するのみならず、両ベルトは糸条の両側で相互にも面接触し、それによって糸条を両ベルト間に挟圧した状態で撚ると同時に送り作用を付与する態様となると解する」(審決書12頁13~18行)としたことは、正当であって、この点に原告主張の誤りはないものといわなければならない。
原告のその余の主張は、上記説示に照らし採用できず、本件全証拠によっても、上記判断を覆すに足りる資料は見出せない。
4 引用発明と本件発明
以上によれば、引用発明は、本件第1発明及び第2発明を通じて本件発明の特徴をなす「両仮撚帯を積極的に押しつけ、交差面に少なくとも一本の糸条をとおし、両仮撚帯が糸条に接触しかつ糸条の両側で相互にも面接触するよう配置すること」ないしは配置されている構成を具備していると認めるほかはなく、その余の構成において相違する点はないと認められるから、本件発明は、実質的に引用発明と同一といわなければならない。
原告は、本件発明の両ベルト同士を積極的に押しつけて糸条を挟持し、その挟持力で糸条を加撚することの技術的意義を強調するが、本件発明の出願の8年余前に公開された前示英国特許第1083052号明細書には、両ベルトの表面自体が押し合っている状態において、糸条を挟持して加撚する方法が既に開示されているのであり、また、本件発明が、仮に引用発明の奏するよりも顕著な効果を生ずるものとすれば、それは、本件発明において、両ベルト間の接圧の設定、ベルトの押し込み量を最適なものとした場合であると推認されるところ、前示のとおり、本件発明の要旨には、これらの具体的数値が特定されていないのであるから、本件発明が引用発明に比し、顕著な効果を奏するものということはできない。
したがって、審決が、「本件第1発明および第2発明のいずれも特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものであり、この点で本件特許発明は特許法第123条第1項の規定により無効とすべきものである。」(審決書15頁11~15行)との結論に至ったことは正当であり、原告においては、この結論を止むをえないこととして受け入れなければならない。
5 よって、原告の請求を理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)
昭和61年審判第23050号
審決
大阪府大阪市西区江戸堀1丁目9番1号
請求人 帝人製機 株式会社
東京都台東区浅草橋5-25-12 三中国際特許事務所
代理人弁理士 三中英治
東京都台東区浅草橋5-25-12 三中国際特許事務所
代理人弁理士 三中菊枝
石川県小松市木場町カー81
被請求人 小田合繊工業 株式会社
東京都渋谷区代々木2丁目11番12号 木村ビル6F 菅・高橋特許法律事務所
復代理人弁理士 高橋隆二
東京都渋谷区代々木2丁目11番12号 木村ビル6F 菅・高橋特許法律事務所
代理人弁理士 菅直人
上記当事者間の特許第1304395号発明「挾持式仮燃方法および装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
特許第1304395号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第2項に記載された発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
[1]本件特許発明
本件特許第1304395号発明(以下、「本件特許発明」という。)は、昭和51年7月21日に特許法第38条ただし書の規定による特許出願として出願され、昭和59年12月1日に出願公告(特公昭59-49336)された後、昭和61年2月28日に設定登録がなされたもので、その発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲(1)及び(2)に記載された次のものと認める。
(1)少くとも2本の走行する加撚帯をある角度で交差させ、両加撚帯を積極的に押しつけ、交差面に少なくとも1本の糸条をとおし、両加撚帯が糸条に接触しかつ糸条の両側で相互にも面接触するように配置し、それによって糸条を両加撚帯で挟圧した状態で撚ると同時に送り作用を付与することを特徴とする仮撚方法。(以下、第1発明という。)
(2)挟持式仮撚装置であって、少くとも1本の第1の加撚帯と、該第1の加撚帯にある角度で交差する少くとも1本の第2の加撚帯と、該第1と第2の加撚帯を駆動する手段とを備え、該第1及び第2の加撚帯は交差する所で互いに積極的に押しつけられて表面同志が面状に積極的に接触するように配置され、少くとも1本の糸条を該第1と第2の加撚帯の交差面に通しそれによって該糸条は両加撚帯に挟持されかつ両加撚帯の進行に伴なって撚られると同時に送り作用を受けるところの装置。(以下、第2発明という。)
[2]当事者の主張
請求人は、本件特許は無効とすべきものであるとし、その理由として以下の点を主張する。
無効理由1(要旨):
本件特許出願の昭和59年8月1日付け手続補正書による明細書および図面の補正はそれらの要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、特許法第40条の規定により、その補正について手続補正書を提出した昭和59年8月1日にしたものとみなされる。そして、本件第1発明および第2発明は、その出願前に頒布された刊行物である特開昭52-12360号公報(甲第1号証)および特開昭55-45850号公報(甲第3号証)に記載された発明と同一である。従って、本件第1発明および第2発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである(請求人の平成1年8月14日付け口頭審理陳述要領書第2頁第5行~第3頁第9行ほか参照)。
無効理由2(要旨):
本件特許出願の出願日を昭和51年7月21日としても、第1発明および第2発明は、その出願前に頒布された英国特許第1,083,052号明細書(甲第4号証)に記載された発明に基づいて、また、その出願前に頒布された米国特許第2,863,280号明細書(甲第5号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(請求人の平成1年8月14日付け口頭審理陳述要領書第3頁第10行~第4頁第6行参照)。
無効理由3(要旨):
本件特許出願の出願日を昭和51年7月21日としても、本件特許発明は、その出願前の昭和51年7月19日に出願され、その出願後に特開昭53-10749号として出願公開された特願昭51-85853号の出願当初の明細書および図面(甲第8号証)に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである(請求人の平成1年9月22日付け弁駁書第13頁第19行~第16頁第4行参照)。
証拠方法
甲第1号証:特開昭52-12360号公報
甲第2号証:特公昭59-49336号公報
甲第3号証:特開昭55-45850号公報
甲第4号証:英国特許第1,083,052号明細書
甲第5号証:米国特許第2,863,280号明細書
甲第6号証:模型の写真
甲第7号証の1:新英和大辞典(研究社発行)
甲第7号証の2:新英和中辞典(研究社発行)
甲第8号証:特開昭53-10749号公報
一方、被請求人は、請求人の主張する理由および提出された証拠方法のいずれによっても本件特許を無効とすることはできない、旨答弁し(昭和62年4月20日付け答弁書、同年9月11日付け答弁書、平成1年8月11日付け口頭審理陳述要領書、平成2年11月6日付け答弁書)、参考資料として米国特許第3,045,416号明細書を提出した。
[3]無効理由についての検討
そこで、請求人の主張する無効理由について検討することとし、最初に無効理由3について検討する。
1. 証拠(特願昭51-85853号の出願当初の明細書及び図面に記載された発明:甲第8号証)に記載されている事項について
特願昭51-85853号は、本件特許発明の出願前である昭和51年7月19日に特許出願され、特許出願後である昭和53年1月31日に出願公開されたものと認める。
そして、その出願当初の明細書および図面には、仮撚装置の撚数コントロール方法について、第1~7図とともに、下記の事項が記載されているものと認める。
(1)「接近または接触してそれぞれ異なる方向へ走行するベルト間に糸条をはさんで通過走行させ撚りを与えるようにした仮撚装置において、糸条に対するベルトの接圧力をコントロールすることにより撚数を設定または調整することを特徴とする撚数コントロール方法。」(特許請求の範囲)
(2)「第3図に示すようにバネ15等にてコントロールすることによりベルト1aの張力を調整し、前記のようにたわんでいるベルト1a、1bの交叉部を張って、該交叉部の面圧を所定の値に調整、設定することにより、前記加撚力を所定の値にコントロールして、所望の撚数を得るようにしたものである。」(公開特許公報第2頁左上欄第15行~同右上欄第1行参照)
(3)「前記加撚力は、前記面圧のみならず、ベルト1a、1bの交叉角θ、ベルト1a、1bの走行速度、ベルト1a、1bと糸条Yとの摩擦係数等の種々の条件によって左右されるものであるが、前記面圧を変えることにより、第2図に示すように、撚数が大巾に変化するものである。」(同第2頁右上欄第2~7行参照)
(4)「第2図に示した値は、交叉角θを108°、ベルト1a、1bの走行速度を1,680m/minとし、さらにベルト1a、1bの背面へ15cc/minの給水を行ってテトロン150デニールの糸条を1,000m/minで走行させて仮撚した場合の実験結果を示す。」(同第2頁右上欄第7~12行参照)
(5)「この実験結果からも明らかなように、糸条Yに対するベルト1a、1bの接圧力をコントロールすることにより、撚数の調整を容易に行うことができ、所望の撚数を極めて簡単に得ることができるものである。また、プーリ2a、3aまたは2b、3bの軸間距離、ベルト1a、1bの長さ等に錘間バラツキがあっても、前記接圧力のコントロールによって、このバラツキを吸収でき、多数錘にわたって均一な撚数を得ることもできるものである。」(同第2頁右上欄第13行~同左下欄第2行参照)
(6)「プーリ2a、3aとプーリ2b、3bを相対的に移動可能に設けることにより、面圧をコントロールするようにしてもよい等、種々変更し得ることは言うまでもない。」(同第2頁右下欄第2~5行参照)
(7)「テンションプーリ24bは、ヒンジ38を介してブラケット29に揺動可能に取付けられたアーム26bに回転自在に取付けられ、ネジリバネ25bにて所定の押圧力でベルト21bに押圧され、該ベルト21bの張力を一定に保ち、ベルト21a、ベルト21bが糸条Yに与える接圧力を所定値となるようにコントロールするようになっている。」(同第3頁右上欄第1~8行参照)
(8)「第1図は本発明の一実施態様を示す概要斜視図、第2図は面圧と撚数の関係の一実験結果を示すグラフ、第3図は第1図のZ矢視による一具体例を示す図、…」(同第3頁左下欄第11~14行参照)
2. 本件特許発明と引用発明の対比
(1)本件特許発明の技術的課題
本件特許発明の技術的課題は、従前の仮撚スピンドルによる仮撚に比し高品質の捲縮を得ること、摩擦係数の大きい表面を有する摩擦回転体に接触するよう糸条を通し、摩擦回転体により糸条に撚りをかける表面摩擦仮撚方式に比し、糸切れ、操業性、毛羽の発生、強度、施撚効率、撚班、生産性、品質、撚数管理等において優れた捲縮糸を得ること、円周部に環状の凸部を有する2枚の回転円板を中心軸をずらせて向い合せて接触させその接触部に糸を通して仮撚加工を行う方式に比し、加撚体の摩耗が少なく安定した仮撚加工が可能であること、さらに、2本の無端ベルトから成る高摩擦体からなる加撚体を交差させ極めて接近させるが積極的には接触させないでその間で糸条を狭持して仮撚を行う方式に比し、糸条を安定的に狭持しかつ撚りと送り出し作用を同時に付与でき長期間にわたって安定に仮撚加工を行うことができる狭持式仮撚方法および装置を提供すること、にあるものと認められる(特許公報第1欄最下行~第3欄第30行参照)。
(2)本件特許発明の作用効果
本件特許発明は、両加撚帯を積極的に押しつけることにより両加撚帯の交差面をとおる糸条を両加撚帯で挟圧した状態で撚ると同時に送り作用を付与することにより、0.01mm~1.0mmのオーダの加工糸条であっても、また糸速度が800~1,000m/minの超高速加工であっても長期間にわたって安定に仮撚加工を行うことができる点にあるものと認められる。
(3)引用発明の認定
甲第8号証の第2図には、テトロン(ポリエステル)150デニールの糸条を1,000m/minで走行させて仮撚する際に、面圧を約1,000gから1,500gにわたって変えて実施した事例と、その場合の面圧と撚数との関係が示され、第3図にはベルト1a、1bと糸条Yとの関係が図示されている。
そして、前記1.(1)~(8)に摘示した記載、とくに「糸条Yに対するベルト1a、1bの接圧力をコントロールすることにより、撚数の調整を容易に行うことができ…接圧力のコントロールによって、このバラツキを吸収でき、多数錘にわたって均一な撚数を得ることができる…。」(公開特許公報第2頁右上欄第13行同左下欄第2行参照)という記載および前記第2~3図からみて、両ベルトの面圧を調整することによって糸条とベルトとの接圧力をコントロールするものであると認められ、また、面圧を1,000g以上とし、150デニールの糸条(本件特許の明細書中に記載される「ロープの様に太いものではなく0.01mm~1.0mmのオーダの極めて細いもの」に相当する。)を、さらに両ベルトの背面へ給水を行って仮撚していること等を考慮すれば、2本のある角度で交差し走行するベルトは単に糸条と接触するのみならず、両ベルトは糸条の両側で相互にも面接触し、それによって糸条を両ベルト間に狭圧した状態で撚ると同時に送り作用を付与する態様となると解するのが相当である。
なお付言すれば、両者は、2本のベルトを積極的に押し付けその間に糸を通すことにより安定的な狭持を可能とする点で、技術的課題ないし発明の作用効果においても共通するものというべきである。
(4)被請求人の反論に対して
被請求人は、甲第8号証には、両ベルトが面状に接触していることは記載されておらず、ベルトの波打ちなどで間欠的に接触することはあっても積極的な押し付けではなく、「面圧」とは「糸条に対するベルトの接圧力」と理解すべき旨主張する(平成2年11月6日付け答弁書第7頁第9行~第13頁第6行)。
しかしながら、(イ)甲第8号証には、特許請求の範囲ほかにおいて糸条に対するベルトの「接圧力」と区別して「面圧」と表現していること、(ロ)第3図のベルト1a、1bの関係が両ベルトが食込んだ配置となっていること、(ハ)本件特許発明の実施例とほぼ同等の糸条繊度と加工速度、撚数として仮撚加工をした実施態様が示されていること等を考慮すれば、少なくとも、両ベルトが本件特許発明でいう面状に接触した態様も開示されているとするのが相当である。
なお、被請求人は、甲第8号証に示されるものでは、摩擦力の強いベルト同志が連続的に接触走行すると加熱し表面の軟化や発煙を生ずるため接触を少なくしたものであって、安定した撚数のコントロールが困難で、本件特許発明によって初めてニップ式仮撚装置の実用化に成功した旨主張する(平成2年11月6日付け答弁書第13頁第7行~第16頁第13行)。しかしながら、かかる効果はベルトの材質など本件特許発明の構成要件に含まれない要件が加わることによって生ずるものであって、本件特許発明の構成要件から直接生ずる固有の効果とはいえない。
(5)対比、判断
以上の点を考慮すると、甲第8号証には、2本の走行するベルトをある角度で交差し、両ベルトは積極的に押しつけられ、両ベルトが糸条に接触しかつ糸条の両側で相互にも面接触するように配置し、それによって糸条を両ベルト間に狭圧した状態で撚ると同時に送り作用を付与する仮撚方法および装置に関する発明、が開示されているものと認められる。
そして、引用発明のベルト1a、1bは本件特許発明における加撚帯に相当することが明らかであるので、本件第1発明と甲第8号証に開示された発明をその構成において対比すると、両者に実質的な相違点は認められない。
また、本件第2発明と甲第8号証に開示された発明をその構成において対比しても、両者に実質的な相違点は認められない。
したがって、本件第1発明および第2発明のいずれも特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものであり、この点で本件特許発明は特許法第123条第1項の規定により無効とすべきものである。
[4]以上のとおり、本件特許発明は請求人の主張した無効理由3により無効とすべきであるから、その他の無効理由についてこれ以上の検討を行う必要を認めない。
よって、結論のとおり審決する。
平成5年11月2日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)